高齢化社会に際して増えつつあるバリアフリーの住まい。ただ機能重視でデザイン性に欠けることも多いようです。今回ご紹介する森村厚建築設計事務所によるこちらは、脚の不自由なご主人の車椅子での生活を前提とした住宅。バリアフリーで車椅子でも快適な生活空間を確保しつつ、クライアントの「和風住宅に住みたい」という要望が魅力的なデザインによって実現されています。では詳しく見て行くことにしましょう。
建物全体は、座敷棟、居間棟の分棟形式とし、それぞれを渡り廊下でつなげる構成とされています。屋根には和瓦、外壁には焼杉を使用した純和風の洗練された佇まいが印象的な外観です。道路側には大きな塀などはなく比較的オープンな構成がとられつつ、ファサードを程よく閉じることでプライバシー確保がなされています。
二つの門が配され、さらに門の奥に細長い庭を造ることで、道路と家の間を完全に仕切って閉じることなく、程よい距離感が生み出されています。アプローチは、車椅子での移動に配慮して緩やかなスロープとされ、また土間の材料にも滑りにくいものが採用されています。
こちらは玄関の様子です。玄関は、土足と室内履きを履き替えるように、外出用車椅子と室内用車椅子に乗り換える場所。そこであえてスロープを設けずに、乗り換えた車椅子を置くスペースを確保できるよう広々とした玄関が計画されました。
室内も暖色でまとめられ落ち着いた温かみのある雰囲気が漂います。車椅子の室内移動では壁の傷がつきもの。それに備えて壁にはナラ材のガードが取り付けられ、さらに将来手摺を自由に追加出来るように、壁の下地には合板が貼られています。
仏間を中心に構成された座敷棟。こちらでは深く張り出した軒の下に座敷をぐるりと囲むように回廊が設けられています。内外の緩衝地帯のようなこの空間は、室内気候を調節する役割を担うほか、室内に居ながら屋外空間を身近に感じることができる心地の良い場所です。
床の間を持つ続き間はクライアントが以前住んでいた家の座敷を実測し、それとまったく同じ寸法を使って新築されました。また、以前使用していた障子や欄間をそのまま用い、畳も表替えをして再利用されています。床の間も形状は新しくデザインされたものですが、床板は一部再利用されています。新築によって耐震性を向上させたり現在のライフスタイルに沿った住空間を実現すると同時に、旧家の材を再利用することで、思い出と愛着を引き継いだ空間となっています。